最もメジャーな漢方薬の一つであると私が勝手に思っている芍薬甘草湯ですが、こむら返りに良く効くと患者様からもっぱら好評です。
では、なぜ効くのか?と言う事を書いていこうと思います。
先に一番お伝えしたい事ですが、こむら返りに芍薬甘草湯は確かに効きますが、それがベストとは限りません。
他の漢方薬の方が良い事も多々あります。
つってしまった緊急時には「とりあえず飲んどけ」で大丈夫ですが、慢性的なお悩みなら自己判断ではなく、やはりしっかり診てもらってからの服用が好ましいです。
理由は最後に説明します。
それでは、芍薬甘草湯について書いていきます。
芍薬甘草湯の構成
芍薬甘草湯は(芍薬・甘草)からなるとてもシンプルな構成です。
この二薬が協力して筋肉の過緊張状態を緩めて楽な状態にします。
他に一切症状が無ければ、無駄を省いた理想的な漢方薬だと思います。
元々傷寒論と言う中医学の必読書の一つに登場する漢方薬です。
この本は後漢の時代に張仲景と言う先生が傷寒病という急性熱症を治す為の本として書かれました。
その書の二十九条に詳しく記載があるので書いていきます。
傷寒論第29条
傷寒、脈浮、自汗出て、小便数、心煩、微悪寒、脚攣急するに、反って桂枝湯を与えて、その表を攻めんと欲するは、此れ誤り也。
之を得て便ち(すなわち)厥し、咽中乾き、煩躁し、吐逆の者は、甘草乾姜湯作りて之を厥し、咽中乾き、煩躁し、吐逆の者は、甘草乾姜湯を作りて之を与え、以て其の陽を復す。
若し厥癒え足温まる者は、更に芍薬甘草湯を作りて之を与えれば、其の脚即ち伸ぶ。
若し胃気和せず譫語するものは少しく調胃承気湯を与う。
若し重ねて発汗し、復た焼針を加うるものは、四逆湯之を主る。
解説
これは元々誤った対応をしてしまった為、甘草乾姜湯・芍薬甘草湯を使わなければいけなくなったお話です。
元々の傷寒、脈浮、自汗出て、小便数、心煩、微悪寒、脚攣急する状態に桂枝湯を使う事が間違っていたのです。
桂枝湯は汗法と言い、汗から寒邪を追い出す処方です。
傷寒・自汗・脈浮の状態は本来、桂枝湯で対応できる症状です。
しかし、小便数は陽虚、心煩・足攣急は陰虚を表しています。
汗法は体表に気を持っていく事で表に取りついた邪を追い出す治法ですが、それは陽がある事が前提となります。
汗をかけば寒邪とともに気・津液は外も出ていってしまいます。
すると、残り少ない陽気を汗として出す事で更に陽虚は進みます。
小便数は陽虚の為起こっているので当然止まりませんし、汗としても更に津液を失ってしまうので陰虚である煩躁・脚攣急が起こります。
その為、甘草乾姜湯を用いてまず陽気を回復させ、その後芍薬甘草湯で陰気を補いなさいとの指示ですね。
一番多く使われている「こむら返り」ですが、もっと詳しく言うと、これは肝の陰血が虚している状態です。
「肝は血を蔵す」「肝は筋を主り、運動を主る」
この二点からも肝血が不足すれば筋が血による滋養を失い、筋肉の異常を生む事が分かります。
続いて芍薬甘草湯を分解して調べていきます。
芍薬と甘草
芍薬甘草湯はこの二薬が合わさる事で酸甘化陰と言う方法で陰血を補っています。
中薬の配合には、酸甘化陰は酸味の収斂作用により養陰斂陽、甘味による補虚緩急・甘潤増液作用により臓腑を潤す方法との内容があります。
芍薬は酸味・甘草は甘味を持つためこの効果があり、「肝は筋を主る」ので肝の陰血を増やす事で筋肉を和らげます。
芍薬の部分は鳥梅(ウバイ・梅の事)で代用できるので、これから運動だけど、カバンに芍薬甘草湯を忘れて心配…という方は、梅干し+スポーツドリンクなんかでも代用出来たりします。
また、冒頭でお伝えした芍薬甘草湯で無くても良いとの意味ですが、方剤中に芍薬・甘草が一定の比率で入っていれば良いので、逍遙散・桂枝加芍薬湯・四逆散など他の処方でも効くため、適切に配合された生薬を使う為にも専門家に相談した方が良いとの意味でした。