中医学的な不眠症

今回は不眠症について書いていきます。

夜眠れず、次の日の仕事・学校が辛くなる困った疾患です。

厚生労働省は不眠症を

「入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの睡眠問題が一カ月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲不振などの不調が出現する病気」と定義しています。

ただこれは病名の定義なので、実際は一カ月も眠れない状態になるまでに対処する必要があります。

また、漢方薬・西洋薬どちらで対処するにしろ睡眠を取るための準備は必要で、

夜遅くまで携帯をいじっていたり、お昼全く動かなかったり、そもそも睡眠時間を確保出来ていない等の場合はそちらを整える前提で治療に臨まないと満足のいく効果は見込めません。

様々な意見がありますが、23時ー7時は睡眠時間として確保しておく必要があると思います。

それでは本題に移ります。

眠れないのは不寐

眠れない疾患を中医学では不寐(ふび)と言います。

・軽症…入眠困難・中途覚醒・覚醒後に眠れない・何度も目覚める

・重度…全く眠れない

などがメインの症状です。

不寐になる原因として

過労やストレスにより心が損傷

体質虚弱や慢性病で腎陰虚

ストレスや気が滞りやすい体質で肝鬱化火

激しく驚かされて心虚胆怯

飲食の不摂生により痰熱が生まれた

などがあります。

問診をしっかり行うと、何が原因でこのような事になっているか分かるので、処方と共に原因となる行動や習慣を見直して頂きます。

では続いて不寐で起こる証をご紹介していきます。

肝火上炎

起こる症状

不眠・せっかちで怒りっぽい・頭痛・目の充血・口が渇いて水分を欲しがる・両脇部の痛み・耳鳴り・鼻血が出やすい・口が苦く感じる・小便が黄色い・脈弦数

原因とメカニズム(病因病機)

感情の抑うつ・怒りは肝を損傷させます。すると肝気の疏泄作用が狂い、肝気鬱状態に変化します。

この肝鬱は長期化すると「火」が生じます。

火は燃え上がる性質を持つので、上昇し、特に顔面部など上の方に症状が現れます。

例えば、頭痛・耳鳴り・目の充血・鼻血などなどです。

これが肝火上炎と言われる症状です。

肝に対する生薬を中心に配合して対処します。

陰虚火旺

現れる症状

喉・口が渇く・胸の中に熱感があって落ち着かない・怒りっぽくなる・ほてる・耳鳴り・めまい・脈細数 など

原因とメカニズム(病因病機)

陰気が少なくなると陽気を抑える事が出来ません。中医学でも様々な学説が存在しますが、これは陰陽学説の影響です。

陰陽学説では、人間の体も全て陰と陽に分ける事が出来、それらがバランスと取れている状態が健康であると考えます。

陰と陽のバランスはどちらかが弱くなりすぎる、もしくは強くなりすぎる事で崩れます。

この場合は陰の気が弱ると相対的に陽が余ってくるので、陽の特徴である熱が生まれます。

これが陰虚火旺です。

 

たとえば、

陽:陰→10:10 …バランスが取れていて良い状態

陽:陰→10:7 …陰の不足により陽が3余りました。この3が熱症状として表れ、ほてり・不眠などに繋がります。

陰を補いながら、虚熱を冷ます事で治していきます。

元々陰虚体質(イライラしやすい・夏場が苦手・やせ型など)の人がなりやすいです。

心脾両虚

現れる症状

動悸・不眠・多夢・食欲不振・顔色が悪い・記憶力低下・元気が無い・食欲不振・精神不安・疲れやすい・大便不調・脈細弱など

原因とメカニズム(病因病機)

心と脾に問題があります。

まず、脾は後天の本と言われ、胃と飲食物(水穀)を摂取して体内に消化吸収を行い、気血津液の製造を行っています。

この脾の機能が悪ければ食欲不振・大便の不調・疲れやすいなどが起こります。

この脾が弱ると心に対しても気血を送る事が出来ません。

心も虚してきますので、動悸・息切れ・健忘・不眠・多夢・顔が青白いなどが起こります。

反対に考え過ぎなどで神(心)がダメージを受けた場合も脾の動きを悪くするので、こちらが病の原因である事もあります。

とにかく①お腹②精神面 この二点が弱弱しいことがポイントになります。

 

 

痰熱内擾

現れる症状

不眠・ビクビクした態度・溜息・頭重・食欲不振・口が苦い・胃酸が上がる・目眩・胸脇が張る・驚きやすい・悪心・脈滑数など

原因とメカニズム(病因病機)

肝胆の流れが悪い事が大元の原因です。

①ストレスなどで気鬱になり、気が滞って痰と火が生まれ、痰熱が肝胆経の気の流れが悪くなっているので、胸脇が張って苦しく、溜息が多くなりますし、胆の力である「決断力」にも影響してなかなか物事を決める事が出来なくなります。

②肝胆の流れが悪くなると脾胃に影響して消化器の症状を引き起こします。

この症状が胃酸が上がったりする症状です。

私の経験ですと、朝軽い吐き気を催し、朝食を食べたがらない人は痰がある事が多いです。

③この生まれた痰+気鬱により生まれた熱が合わさると痰熱が生まれます。

痰熱が心神に影響すれば、不眠症・驚きやすいなど心神の症状が現れます。

動悸が現れる事もありますが、心臓神経症で片付けられ、循環器では対処してもらえない事もあります。

大元のストレス対策も必要ですし、消化器も弱っているので食べ過ぎ・飲み過ぎも良くありません。

特にお酒は①熱性②痰を作りやすいので、絶対に避けた方が良いです。

心胆気虚

現れる症状

動悸・息切れ・驚きやすい・怖がり・汗が漏れ出る・良く夢を見る・気が弱い・不眠・疲れやすい・音に敏感など

原因とメカニズム(病因病機)

心胆気虚は心気・胆気が虚している為に起こります。

心気が不足すると心神が安定せず、動悸・息切れ・汗が漏れ出る・多夢・疲れやすいなどが起こります。

胆が弱ければ決断が出来ないので、何かを決めるのに時間を要しますし、決めきれない事も多々あります。

もともとの虚弱体質が原因である事が多いです。

胆鬱痰擾と類似点もありますが、胆鬱の場合は湿の影響もあるので便がベタベタ・悪臭があったり、舌にベッタリ膩苔が生えていたりします。

ベッタリ膩苔は湿を表します。

対して心胆気虚はすぐに疲れたり、疲れやすさが顕著に出ていたりします。

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