生薬の解説を行っていきます。
漢方薬は生薬が集まって出来たものなので、生薬一つ一つの理解は選薬する上で必須の条件です。
今回は烏薬について書いていきます。
烏薬の効果
烏薬の使われ方を見ると、茴香の様に睾丸や下腹部の痛みに使われる場合もあります。
天台烏薬散という処方は、この痛みに対して烏薬と茴香などが協力して痛みを落ち着ける処方です。
寒滞肝脈に関しては烏薬と茴香と差別化する必要はないので、気になる方は茴香①の記事を参考にして下さい。
では、茴香との違いは何なのか?と考えると、一つは膀胱が冷える事で起こる頻尿に使われる点です。
温腎縮尿作用により、膀胱が冷えて頻尿という状態を治します。
処方では縮泉丸という処方がこの目的で烏薬を配合しています。
益智仁・烏薬・山薬の三つからなる処方ですね。
それではまず、縮泉丸が必要な身体の状態を探っていきましょう。
腎と膀胱は関係が深い
先程の文章を見ると、「腎か膀胱どっちなんだ!はっきりしろ!」
となってしまいますね。
中医学には表裏関係というものがあり、臓と腑は経絡で繋がっており、密接な関係にあると考えます。
表にするとこんな感じです。
腑(陽・表) | 大腸 | 三焦 | 小腸 | 胃 | 胆 | 膀胱 |
臓(陰・裏) | 肺 | 心包 | 心 | 脾 | 肝 | 腎 |
先程出た腎と膀胱が表裏関係にありますね。
現代の中医学ではこの様な図で説明されます。
実際は心包は臓ではありませんが、表裏関係を説明する際に便利な図ですので引用しました。
ここでは心包については言及しません。
縮泉丸のケースでは、腎の気が不足して、表裏関係にある膀胱の働きを悪くしています。
膀胱には尿を溜め込むという働きがありますが、この働きができなくなるので頻尿になってしまいます。
この働きを取り戻す処方が縮泉丸であり、烏薬なのです。
それでは、生薬一つ一つの働きを見ていきましょう。
縮泉丸の処方意図
先程の説明を簡略化すると、
腎陽虛→膀胱が冷えて頻尿 という流れでした。
縮泉丸で一番メインとなる働きは益智仁という生薬です。
この生薬は益火暖腎・縮尿固精作用により腎・膀胱の冷えによる頻尿を治します。
先程の文章を理解できた方は
「え、この生薬だけで治るじゃないか。」
と思われると思います。
それは正解なのですが、薬性配合理論には相使という考え方があり、主となる薬物に同じ作用の生薬を輔薬として配合するとより効果を高める事ができると考えます。
つまり冒頭に挙げた烏薬の温腎縮尿作用は
「益智仁の腎・膀胱を温めて頻尿を治す作用を烏薬が後押しして強化している」
と考える訳です。
わざわざ配合されているので処方意図が分かりやすいですね。
益智仁からすると、手伝って貰って助かるわ〜といった気持ちでしょう。
ちなみに山薬も縮尿作用があるので、
「尿を止める力を後押ししている」
という立ち位置です。
いい仲間に囲まれて、益智仁は幸せですね。