生薬の解説を行っていきます。
今回挙げていく生薬は黄耆です。
この生薬はジャンルで言えば補気薬に属し、気の不足状態を補って改善させる生薬ですね。
黄耆の「耆」は長との意味で、補薬の長との意味が名前に込められています。
特に人参が合わさるとすごく強い補気作用を持つ様になります。
加味帰脾湯・人参養栄湯・補中益気湯など日本でメジャーな方剤にもこの組み合わせは含まれ、栄養ドリンクに配合されることもしばしばあります。
では、黄耆が頻用される気が不足している状態とはどの様なものか探っていきましょう。
気虚
気の不足(気虚)と言っても、細分化していくと脾気虚・肺気虚・腎気虚・肝気虚・心胆気虚など色々あります。
そのうち今回取り上げていくものは脾気虚です。
脾気虚も更に細分化出来るのでやってみましょう。
脾には①主運化②主昇清③主統血の三つの働きがありますが、これらは脾気虚になるとこれらの働きが単独もしくは同時に崩れます。
必ず全てが同時に起こる訳ではないので、脾にいい薬と言っても脾にどの様にアプローチするのか知っておく必要があると思います。
今回は脾における黄耆の話がメインなので、全てには触れませんが、私はこの中で特に②③に黄耆の特徴が出ていると考えています。
それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。
主昇清
主昇清、まずはこの言葉を深掘りしてみます。
昇という字は「日がのぼる事」を意味します。ベクトルは↑ですね。
清は飲食物から取り出した必要なもの(水穀の精微)です。
この取り出した必要なものを上部にある心や肺に運び↑、それらの作用で気血に変換します。
脾気は昇って健全(脾以昇為健)と言われますが、この昇らせる働きが悪いとそもそも気血にならないので疲れやすくなるのですね。
さらにこの昇らせる働きは内蔵や体の各所にも現れます。
胃下垂・眼瞼下垂・脱肛・子宮脱などがこの機能の異常として起こり得ます。
黄耆はこういった脾気が原因でベクトルが↓に下がった気虚下陥という状態に対して、補気昇陽という作用により持ち上げる力↑を付けます。
例えば持ち上げる力をつける代表処方である補中益気湯の一般的な解釈では黄耆がメインで升麻・柴胡がその持ち上げる力を後押しします。
実際、補中益気湯は前述した全ての症状に使う事が出来ます。
まずは黄耆の持ち上げる力について説明しました。
次回は黄耆の血を止める力について書いていきます。