黄耆について

今回は日本の漢方薬にも頻用される「黄耆(おうぎ)」について書いてます。

黄耆は補中益気湯・人参養栄湯・帰脾湯など非常に多くの処方に配合されます。

本草鋼目・奇経八脈考など現代の中医学にも絶大な影響を与えた李時珍という人は

耆とは長の意味があって、黄耆は黄色のもので補薬としての長だからかく名つけたものである。」と言いました。

そのくらい大きな補気作用を持ち、様々な場面で用いられています。

それでは黄耆にはどんな効果があるのか?

細部を書いていきます。

黄耆の基本的な使い方

黄耆の性味・帰経は中薬学では、(甘・温/肺・脾)とされます。

中医臨床のための中薬学では

①補気升陽 ②補気摂血 ③補気行滞 ④固表止汗 ⑤托瘡生肌 ⑥利水消腫 ⑦その他

と分類されます。

①では、THE気力不足の様な状況に使われます。

易疲労・食欲不振・力が入らない・息切れ・汗がだらだら漏れ出る・便がドロドロしているなどが現れます。

②では統血作用が失われ、身体から血が漏れ出る状態になります。黄耆が気の固摂作用を回復させ、漏れ出る身体を治します。

③では、気虚血滞状態を治します。しびれ・運動障害・半身不随などが現れます。

④では、気の固摂作用が弱っているので、汗が良く出ます。

⑤では、気血不足のため傷の治りが遅い状況などに使われます。

⑥では、気虚による浮腫みなどに使われます。

⑦では、消渇の多食・多飲・多尿などに使われます。

これらはそれぞれのパターンで適切な生薬と配合する事で効果を発揮します。

教科書にはない認識

日本で使われるメジャーな教材では、基本的に効能が脾・肺の域を出ないものが多いです。

しかし、中国では腎臓疾患でも黄耆が多用されており、

江蘇省中医腎内科の孫偉教授は中医臨床144号で、

「黄耆は足の少陰腎経に入り、元気を補益し、腎気を大補するため、腎臓とは特に重要な関係にあります。」と述べており、腎機能障害に多用されています。

本草鋼目でも

「陰中の陽なるもので、手、足の太陰の気分に入り、また手の少陽、足の少陰、命門に入る」とあり、腎へも作用する事が分かります。

足少陰…足少陰腎経 命門…諸説ありますが、命門の火を補う薬と言われれば、多くは腎陽を補う薬です。

最近では黄耆の慢性腎臓病(CKD)への使用研究も行われており、

論文「慢性腎臓病(CKD)に対する黄耆末の使用経験」ではCKDの患者22人に黄耆末を14カ月間服用してもらったところ、全ての患者にCr(クレアチニン)とeGFRの改善傾向が見られました。

西洋医学では、一旦腎機能が低下するとなかなか元に戻らないと言われている中、これは非常に凄い事だと思います。

私も数名CKDの方を漢方で治療させていただいていますが、心身の全体的な調子はもちろんの事、数値も良くなっているので漢方の腎臓への効果は確かにあると思います。

張錫純の黄耆を使ったエピソード

張錫純が黄耆のみを使って大気下陥を治したエピソードが大変参考になるのでご紹介させて頂きます。

出典は医学衷中参西録です。

ある患者さんが汗をかき、征中(心臓の激しい動悸)、胸悶(胸がいっぱいな感じがする)を訴えました。脈遅微弱で右が甚だしい状況です。

張錫純はこの状態に黄耆1両を煎じて服用させようとしました。

すると同族の医学知識が豊富なものが、

・薬性が透表で自汗証に対し用いるべきでない

・薬性が昇補なので胸悶証に用いるべきではない

と問題定義しました。

張錫純は責任は私が取るからと言って服用させました。

すると全症状が回復したので男が驚いて理由を尋ねたところ、

・胸中大気下陥証の為に衛気が統摂できない場合は黄耆は信じられないくらい効く

・大気下陥証で胸がいっぱいになるのは呼吸不利による悶であり、気鬱によるものでないので効く

・心肺は胸中に宙づり状態で、黄耆で大気を持ち上げると心がよりどころを得て、征中は止まる

と答えてその男は感銘を受けたというものです。

この様な情報が残っているため我々は迷う事なく処方出来ますが、治療における指針を示してくれた先人の方々には敬服の念に堪えませんね。

日本でも多用される補中益気湯でも使える認識ですのでご紹介させていただきました。

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