不妊症と漢方薬

こんにちは。

くるみ薬局 中医学教育部門長の日下です。

東洋医学における不妊治療のメカニズムや、実際に弊局に起こしいただいて妊娠された方の症例についてもご紹介させて頂きます。

赤ちゃんが欲しいけど妊娠できない。

このお悩みは日本では晩婚化に伴い、誰にでも起こりえるものとなっています。

最近は6組に1組のご夫婦が不妊治療を経験されており、女性だけの問題ではなく、約半数のご夫婦には男性側にも問題がある事が分かってきました。

不妊症に関する書籍・雑誌なども多く出版され、様々な情報を得つつ治療に臨む事の出来る環境になってきましたが、実はその不妊(不育)治療には男女共に漢方薬による治療が盛んに行われている事はご存知でしょうか?

様々な西洋医学による治療が紹介されている中、東洋医学に関する情報にはしっかり触れられていないと感じたため本記事にて簡単にご紹介させて頂きます。

女性の体では調経を行い妊娠力を上げる

調経とは、「月経を調える(ととのえる)」という意味で、女性の妊娠確率を上げるには調経が鍵となります。

女性の月経は心身の状態が反映されやすい部分で、健康で妊娠しやすい状態の人は生理痛もなく、生理前・生理中・生理後も何の問題もなく過ごせます。

しかし、体に何らかのトラブルが起これば、月経の周期・月経の起こる日数・経血の量・経血も質・経血の色・月経前や後の不調などに異常が起こりやすくなります。

良くある例を挙げてみると、不妊治療に真剣に取り組んでいるが、先の見えない不安・高額費用等が心の負担になり、ストレスが掛かって更に妊娠しづらくなる方です。

するとリラックス出来ていない過緊張状態が作られます。

この状態の方の脈を取らせて頂くと、弦脈と言われる真っ直ぐピーンと張った弦の様な状態が多見されます。

合わせて気分の落ち込み・ため息・生理痛・生理周期がバラつくなどが確認できれば、東洋医学でいう「肝気の流れを調整するリラックス系の漢方薬」を使う事で諸所の問題が解決し、妊娠する確率を上げる事が出来ます。

西洋医学でもこう言ったストレスホルモンであるコルチゾールが長期的に出ている状態は、視床下部→下垂体→卵巣の流れが崩れるとされますね。

不妊治療を辞めた途端に妊娠する方も多くいらっしゃるのも、「不妊治療という気の滞りを生むものから離れた事で心身の流れが正常化して月経が整ったから」というパターンも多いです。

今は一例としてストレスを挙げてみましたが、他にも肥満・両親から頂いた生殖機能を働かせる力が弱い・血の不足・消化吸収能力が低い・子宮の血流が悪い・冷え性など様々なケースがあります。

いずれも東洋医学では何らかの原因で起こった問題が月経に反映されやすいので、月経を整える事は結果として人体の力を底上げして妊娠確立を上げる事に繋がると当薬局では考えます。

男性は精の状態を良くする事で治療を行う

男性が不妊治療を行う際は、精の状態を正常に保つ必要があります。

精とは何か?と考えた時、「東洋医学の指す精」は単純に精子のみを指す訳ではなく、知能と体の成長・発育・生殖機能なども含む概念です。

この精に何らかのトラブルが起こった時に子供が作りづらい状態になります。

例えば良くある例として、精索静脈瘤ですね。

精索は精巣の上側方向にある精管・血管・神経・リンパ管が束になって構成される箇所で、その静脈に「瘤という名のコブ」が出来る事で精巣の温度が上がり、精子を作る能力が低下する状態です。

この様な状態で脈による診断を行うと、脈沈渋という通常の脈より深い位置でゴツゴツした脈が確認され、その他にも射精時に鋭い痛みなどの症状も確認されます。

この場合は血瘀証として、活血薬と言われる血流障害を治すジャンルの生薬が配合された漢方薬で治療すると良い成果が得られます。

その他女性の不妊症と同じく冷え・ストレス・肥満・先天的に弱い身体などにより引き起こされる事もあります。

男性の東洋医学による不妊症治療も女性と同じく、何が原因か探り、その原因に働きかけて治す事が重要です。

こういった治療を行う事で、男性不妊(不育)症の原因である「造精機能障害・精路機能障害・副性器機能障害・精機能障害」などの改善を測ります。

また、男性の不妊(不育)症を治すためには日常生活で気をつける事が多く、基本的な生活習慣のみではなく、禁酒・喫煙なども必要になります。

実際の症例

実際の治療ではどの様な経緯をたどり、治療者はどの様な考えを持って治療していくのか気になるところですよね。

当薬局で治療して改善された患者様お二方の事例を基に、ポイントを抑えてご紹介していきます。

 

症例① 30代前半女性

主訴:5年前に第一子は問題なくご出産されたが、第二子が妊娠出来ない。

様々な症状を聞いていくと月経痛・月経血に塊が混じると共に、

「冷え性で、椅子に座ると下腹部が冷え、レザーの椅子にも直には座れないのでいつも座布団を持ち歩いている」

という特徴的な症状が現れていました。

これは衝任虚寒・瘀血阻滞という状態が招いた不妊症で、

子宮が冷えているので、その部分がさらに冷えようとすると拒否反応が起きてしまうのですね。

血の塊は血行不良を現しますが、その中でもこのケースは冷えによって引き起こされたものです。

大きな流れでは、

子宮の冷え→血行不良→生理痛・経血にレバーが混じる と言った感じですね。

温経散寒・養血祛瘀の効能をもつ方剤を使うと冷えや生理痛が取れ、月経も正常に戻ってきて

「座布団を持ち歩かなくても良くなりました!」と嬉しいお声を頂きました。

お仕事柄、ストレスも多い仕事なので、その点にも対処しつつ治療を進めると8ヶ月後に赤ちゃんを授かり、無事にご出産されました。

 

症例② 30代中頃女性

主訴:西洋医学の不妊治療を2〜3年続けて受けているが、全く妊娠できない。

無月経でおりものも無く、痩せて顔色も悪く、疲れやすい。

精神面としては、旦那様が年上との事で年齢的な焦りもあるが、それよりも心に負担がかかってしまって元気がわかない状態です。

その他の状態も合わせて考えると、肝腎精血虚損の状態になっていました。

まず、顔面のゲッソリ感ですが、面脱と言われる状態で、精の枯渇が起こると、顔面の筋肉が落ち、両頬や眼が窪んでいきます。

他の疲れやすい・無月経・精神萎縮も精が不足すると起こる症状です。

中医学でいう「精」の概念は、西洋医学の女性ホルモンを含みますが、女性ホルモンの減少でも顔面の骨密度が下がり、眼窩が広がって窪むと言われますので、この点はどちらの医学でも共通の認識です。

この様な精が枯渇して妊娠できない状態には動物性の精を補う力を持つ生薬が大活躍します。

処方に組み込むと、二ヶ月目にはおりものに続いて月経も訪れる様になり、だんだん体も楽になり、気持ちも前向きになってきました。

半年経ったころには医師から

「卵の成長が良いですね。」

と言われ採卵。

三ヶ月後に人工授精から無事にご出産され、現在ではお二人のお子様に恵まれています。

 

以上、簡単に漢方薬による治療を簡単にご紹介させて頂きました。

基本的にはその人自身の持つ力を底上げすることで状態を整える治療になります。

また、実際に漢方薬による治療をしっかり行なっているお店では月経や精の状態だけを尋ねるのではなく、

・舌診 ・便の回数と状態 ・睡眠の状態 ・尿の回数と状態 ・食欲 ・精神状態 ・冷え性 ・暑がり ・生活習慣 ・その他一見全く関係のなさそうな症状

にまで踏み込んでその方の体質を判断してから処方を決定します。

これは整体(全体)観念という東洋医学の特徴で、人体は臓腑・経絡・器官・気血・精など様々なものが協力して出来ており、このバランスの乱れが様々な異常を引き起こすので、正確にその人の状態を把握するには集める必要のある情報だからです。

くるみ薬局では漢方専門の相談員による「心と身体に負担の少ない不妊治療」を心がけております。

西洋医学による治療との併用も可能ですので、お身体を立て直しつつ漢方薬により妊娠確率を上げたい際はお気軽にご相談下さい。

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